468球目 ヘッドスライディングはカッコ悪くない

 依野よりのが頭からすべる。砂ぼこりが舞い、1塁審判が食い入るように見る。



「セーフ、セーフ!」


「よっしゃあ!」



 依野よりのは両手を上げて大喜びする。ポートタウンナインはゲッツー崩れのサードゴロで1点返した。



「ヘッドスライディングより駆け抜けた方が速い。しかし、高校野球においては、ヘッドスライディングの泥臭いプレイをした方が、セーフと判定したくなる。それが100年以上蓄積された高校野球の伝統だ」



 村下むらした監督はメガネを押し上げて言う。



 1死1・3塁になったが、流れはポートタウンに傾く。



 1番の天村あめむらはショートへのゴロだが、快足でセーフになる。3塁ランナーがホームインし、2点目が入った。



「林! 粘れぇ!」



 友永ともながの代打の林は、徹底的にカット打ちし、四球フォアボールで出塁した。



 次の峰岸みねぎしはベース寄りに立って、ユニフォームの袖にかする死球で出塁し、2死満塁となる。



福口ふくぐち、ここで相手はどういう攻めをすると思う?」


「低目のボールを打たせて内野ゴロです! 外野に飛ばせばサヨナラ負けのリスクがあるので」


「その通りだ。じゃあ、どういうプレイをすればいいかわかるな?」


「はいっ!」



 村下監督は兵庫県優勝ではなく、全国優勝するためのチームを作ってきた。歴代最強チームが、こんなところで負けるワケにはいかない。



 福口ふくぐちは目を輝かせて、低目のストレートをバントで転がした。



(甲子園出場まであと1人)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る