459球目 データ野球に意外性がない

 3年前、神戸ポートタウン大付属は、新潟にいがた県の水島みずしま農業高校に0-18の大敗を喫した。



 試合後、水島農の新田にった監督が、村下むらした監督に声をかけてきた。



「ポートタウンの野球、意外性がないだや。次んば面白いチーム作ってくるだや」



 データに即して最善を尽くす野球が、全国に通用しなかった屈辱。これを晴らすべく、村下監督は関西の中学野球チームを回って、逸材を探した。



 そこで見つけたのが、奈良の大仏なむさんズの黄崎きざき勇気ゆうきだった。中学3年生ながらMAX145キロのストレートを投げる逸材に、彼は惚れ込み、スポーツ推薦すいせんで入部させた。



 しかし、入学後の黄崎きざきは伸び悩んだ。



 彼はデータ野球に頭がついていけず、練習をサボりがちになった。そこで、村下監督は去年の秋、彼にこう告げる。



「次の練習試合でクオリティスタート(6回を投げて3失点以内で抑える)が出来なかったら退部だ」



 練習試合の相手は夏の全国準優勝の埼玉さいたま翔出しょうで高校だ。黄崎きざきは燃えに燃えて、猛特訓を積む。そして、MAX151キロのストレートと要所を締めるサンシャイン・アローにより、6回1失点の好投を見せたのだ。



「こいつは意外性の塊だ……」



 こうして、村下監督は彼をベンチに入れることにしたのだ。



(続く)

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