456球目 ゲームセットにしたくない

「ごめん、ごめんね!」



 手を合わせて謝る津灯つとう。よく見れば、彼女の顔に汗が全く流れておらず、唇が青白い。



「ミス・ツトー、ベンチへ行ってドリンクを飲んできて下さい」


「うん、わかった」



 彼女の足取りに前の回の躍動やくどう感がない。恐らく、炎天下のピッチングが彼女を熱中症寸前に追い込んだのだろう。今日はめっちゃ暑いもんな。



 彼女をベンチに下げるのがベストだが、このチームの精神的支柱を失うのは痛い。グル監は唇を噛みしめてこらえている。



 川田かわたは初球から走ってくる。東代とうだいは2塁へ送球、ショートの津灯つとうが捕りに入る。



「セーフ!」



 津灯つとうの入りが遅かった。ううう、ますますピンチ拡大だ。



 天村あめむらに送りバントを決められ1死3塁に。



 内野はゲッツー狙い、外野は前進守備、絶対に3塁ランナーを返さない守りだ。



 俺は友永を2-2に追い込む。運命の5球目、外角低めアウトローにストレートを投げる。打たれる。



「レ、レフト!」



 打球はレフトの烏丸からすまさんへ。先輩は少し下がり、腕を伸ばしてボールを捕る。3塁ランナーがタッチアップをする。



「バックホーム!」



 烏丸からすまさんの送球がワンバウンドでホームへ。しかし、川田の足の方がはるかに速かった。



「セーフ! ゲームセット!」



 そんな……。こんなにあっけない幕切れなんて……。



(続く)

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