447球目 サヨナラじゃない

 峰岸みねぎし村下むらした監督の指示通り、センター返しを心がける。



 高目のボールに手を出さず、低目のボールをダウンスイングで打つイメージが出来ていた。初球のど真ん中高目のストレートを見送り、2球目の低目に落ちるスローカーブを打つ。



 センターへ抜けると思われたが、ショートの津灯つとうがグローブに入れて、セカンドの宅部やかべへトス。宅部やかべはそつなく捕って、ファーストへ送球。水宮みずみやが捕って6-4-3のダブルプレーとなった。



 その間に3塁ランナーの川田かわたがホームイン。2死3塁でチャンスは続く。



「何という素晴らしい守りだ。敵ながらあっぱれや」



 村下監督は敵を称賛しつつ、福口ふくぐちに流し打ちのサインを出す。福口ふくぐちはうなずき、ボールを見極めて打つことにした。



 初球は外のストレート。福口ふくぐちはコースに逆らわず、ライトへ打つ。



「やったぁ! サヨナラぁ!」



 福口ふくぐちは両手を上げて喜びながら走る。だが、火星ひぼしが地面スレスレで捕った。



「アウト! スリーアウトチェンジ!」


「チッ! 同点止まりか」



 村下監督はスコアブックを見て、ふと気づく。大柴おおしば増川ましかわはベンチに引っ込み、鮎川あゆかわに代打を出した。3人のピッチャーが出られない今、唯一使えるのは――。



「ついに、俺の出番でやんすね。監督、監督ぅー」



 黄崎きざきが腕まくりして、投げる気満々である。村下監督は彼を無視して、福口ふくぐちキャプテンに声をかける。



福口ふくぐち君。君は1年秋までピッチャーだったね?」


「あっ、はい。牽制けんせいが下手クソやから、サードになったんですけど」


「なら、問題ない。10回から投げてくれ」


「えっー!?」

「はいいい!?」



 福口ふくぐち黄崎きざきの目が飛び出そうになった。



(続く)

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