446球目 すんなりゲームセットにしてくれない

「ピッチャー火星ひぼし君に替わりまして、取塚とりつか君」


「よしっ、きたぁ!」



 冷静沈着な村下むらした監督が珍しく叫ぶ。久々にデータ野球を発揮できる投手が出てきたからだ。



「代打攻勢でいくよ。山名やまなは中田、天村あめむら白木しらきの代打の準備をしてくれ」


「「はいっ!」」



 事前シミュレーションでは、山名やまな天村あめむら2人が8割打っていた。2人揃って凡退する確率は5%以下だ。



 山名やまなは肩口に甘く入ったスローカーブを引きつけて打ち、センターへ運ぶ。同点のランナーが出た。



 次の天村あめむらはバスターでライト前ヒット。サヨナラのランナーが出る。



飯卯いいぼう監督もまだまだだね。最終回に津灯つとうを出せば、こんな展開にならなかったのにねぇ」



 友永ともながの打席の初球から、山名の代走・川田と天村あめむらを次の塁へ走らせる。完全に虚を突かれた東代とうだいはどっちにも投げられず、無死2・3塁になった。



 浜甲はまこうバッテリーは友永ともながを歩かせて、無死ノーアウト満塁フルベースとする。



「ここで鮎川あゆかわか……」



 鮎川あゆかわは今大会打率3割ジャスト。しかし、バントは下手で、練習試合でよく併殺打ゲッツーになりがちだ。



「対取塚とりつか7割5分の峰岸みねぎしを出すか、あえて1死満塁にして福口ふくぐちに託すか……」



 福口ふくぐちは打率2割5分の平凡な打者だが、この試合に関しては四球フォアボール、犠牲フライ、四球フォアボール死球デッドボールでよく出塁している。



「決めた! 峰岸みねぎし鮎川あゆかわの代打だ!」


「はいっ!」



 村下監督はサヨナラ勝利を狙いにいった。



(続く)

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