448球目 敗北者に明日はない

 柳生やぎゅう理事長夫人は浜甲はまこう学園が負けるよう、呪いの踊りをしていた。園田そのだは困惑した顔でそれを見ている。



「あのぉ、TV見えないんですけど」


「ハァー、浜甲負けろ、浜甲負けろ。負けるは浜甲、負けるは浜甲」



 理事長夫人は全身を使って踊り狂い、しわがれた声で叫ぶ。



「ダメだこりゃ」



 園田はスマホを出して、高校野球速報の画面で観戦し始める。



※※※



 浜甲学園の応援団の中に、八木やぎ学園の木津きづ六甲山ろっこうさん牧場の大縞おおしまら3年、摩耶まや尺村しゃくむら、こうのとりの宮田みやた臨港りんこう学園の鰐部わにべがいる。彼らは今後の試合展開について話していた。



「ハハハ。この試合、浜甲の勝ちや」


鰐部わにべ君、その根拠は何やし?」


「だってぇ、ポートタウンのピッチャー、しょぼい奴しかおらんもん」


「せやな。黄崎きざき木津きづ以上のヘボやもんな」


「何ぃ!? 俺がヘボだって!!」



 木津きづ大縞おおしまの発言にブチ切れる。



「コールド負けしたやんけ」


「そっちこそ千井田ちいだに満塁ランニングホームラン打たれたクセに!」


「目くそ鼻くその争いはやめなはれ! アニメ『ガンガン・サバイバー』のオレガ大佐が言っとるやろ。能力の低い者同士の争いほど無意味なものはないって」


「「黙れ、アニ豚!!」」



 木津きづ大縞おおしまが異口同音に叫ぶと、安仁目あにめは豚化して2人の肩をつかみ、三つ巴の争いとなった。



「ちょっとぉ、ケンカは外でやってやしぃ」


「あああああ。不吉な予感がするわぁ」



 尺村しゃくむらの不吉な予感とは何か。それよりも、周囲の人は彼女の全身黒ずくめの格好が不吉だと感じていた。



※※※



 刈摩かるまは自宅のリビングで高級ケーキを食べながら、大画面の4Kテレビで観戦している。彼の隣には神川かんがわがいて、ダンベルを上げ下げしていた。



「データ野球も大したことないなぁ」


「確かに。急造投手リレーに翻弄ほんろうされてる感ありますよね。でも、浜甲が使える急造投手のカードは津灯つとう本賀ほんがのみ。長引けば長引くほど浜甲が不利になりますよ」



 刈摩かるまはイチゴを口の中に入れて、幸せ一杯の表情を見せる。



「ポートタウンが裏の攻撃ってのも有利か。何点取られても、データで何とかするからな」


「ええ。浜甲が勝ちたいなら、延長10回に勝ち越す。これに尽きますよ」



 延長10回表、浜甲学園最初のバッターは、アウトコースヒッター・烏丸からすまからだ。



(続く)

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