443球目 ドクターKは同じ失敗を繰り返さない

 7回を終えて、3-2で浜甲はまこう学園がリードしている。神戸こうべポートタウン大付属の4年連続甲子園出場に黄信号が灯った。



「残るピッチャーは火星ひぼし津灯つとうか」



 体を変形させる火星ひぼしは打ちにくい。130キロ以上の速球を投げる可能性の低い女性の津灯つとうなら、初見でも攻略できそうだ。



黄崎きざき君、130キロのボールはいつでも打てるな?」


「もちろんですよ! いつでも俺を代打に使ってもいいですよ、監督ぅ」



 4回戦の代打以降、全く使われていない黄崎きざきは力こぶを作って、必死にアピールする。だが、悲しいかな。彼は村下むらした監督の視界に全く入っていない。



増川ましかわが0に抑えれば、まだ勝機は十分ある。増川は私の最高傑作なんだ」



 増川ましかわ英才ひでとしはバッターの得意ゾーンから逃げる変化球を投げるのに長けている。彼は去年の夏からベンチ入りし、常に投球回数よりも多く三振を奪う活躍を見せてきた。



 制球力とスタミナの面で鮎川に劣るため、エースナンバーはつけさせなかったが、村下が見てきた中ではナンバーワンの好投手である。



 7回に東代とうだいにツーベースヒットを打たれたが、今日も安定のドクターKぶりを発揮する。番馬ばんばを外のスライダーで空振り三振、水宮みずみやを緩急で三振、宅部やかべを外のカーブでファーストゴロに抑えた。



「ナイスピッチン!」


「ありがとうございます!」



 村下監督は立ち上がって、増川ましかわとグータッチをかわした。



(続く)

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