441球目 ドクターKから逃げない

 神戸ポートタウン大付属の増川ましかわは右のスリークォーターで、MAX147キロのストレートとスライダー・カーブ・フォーク・チェンジアップの多彩な変化球を誇る。16回を投げて24奪三振2失点、ポートタウン内で最も手ごわいピッチャーかもしれない。



 ここは東代とうだい本賀ほんがさんを代打で送り、チャンス拡大を狙うべきだろう。しかし、グル監はそのまま東代とうだいを打席に送る。



東代とうだい、お前、あのピッチャー打てる?」


ノンプロブレム問題ナシ。打ってみせますよ」



 今日まで公式戦ヒット1本のみの男が打てるだろうか。俺は1塁ベースコーチとして彼を見守る。



 増川ましかわは投球練習中、ノビのあるストレートをコースの四隅に決める。こいつも、鮎川あゆかわ大柴おおしば同様にコントロールが良さそうだ。



 東代とうだいはバットを寝かして、増川ましかわのボールを待つ。初球はストレート、外角低めアウトローだ。



カキィイィィィィィン


「何ぃ!?」

「うそーん」



 東代とうだいが鮮やかに打ち返し、バッテリーは目を丸くして驚く。打球は前進守備のライトの頭を越える。彼は2塁まで走った。



 もっと苦戦すると思っていただけに、拍子抜けだ。



 山科やましなさんは三振に倒れてチェンジ。しかし、この試合初めてリードできた。



東代とうだい、どうして初球打てたんだ?」


イージー簡単なことですよ。私のようなローアベレージ低打率のバッターなら、オーソドックスな攻め方をされます。ポートタウンのトモナガのリードはテキストブック教科書通り、初球にアウトローのストレートを投げる。当たりました」


「狙い打ちして打てるもんじゃないだろ……」


「初球はミスター・ミズミヤのストレートよりスローでしたので、打ちやすかったですよ」



 東代とうだいはクールにさらっと言う。今日の試合、彼は色んなピッチャーを好リードして、さらに勝ち越しタイムリーを打っている。最高のキャッチャーだよ、お前は。



(続く)

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