439球目 怨念ボールは打ちたくない


 6回表のマウンドに立ったのは、霊媒れいばい師の卵・烏丸からすまさんだ。



「ここは怨念おんねんがいっぱいおんねん」



 いきなり寒いダジャレを発して、グラウンドがヒンヤリした。



「皆の後悔よ、ボールに集まれ!」



 烏丸からすまさんがボールを高々とかかげると、黒い煙のようなものがまとわりつく。



「喰らえ! 怨念おんねんボール!」



 烏丸からすまさんがボールを投げると、ボールの表面にたくさんの人の顔がこびりついて、悲痛な叫び声を上げる。



「美女と付き合いたかったぁ!」

「ホームラン打てへん!」

「俺の論文盗みやがったなぁ!」



 バッターの大柴おおしばはビビって、1ミリも動けない。



「ストライクッ!」



 120キロのストレートだが、人の顔目がけて撃つのは気が引ける。



 大柴おおしば利根橋とねばしはあっさり凡退。だが、鈴村すずむらはファーストの俺の方へセーフティーバントしてきた。早く捕って、烏丸からすまさんにトスしなくっちゃ。



「ひいいいい、人でなしぃ!」



 しわくちゃのおじいさんの霊と目が合って、一瞬体が固まった。慌てて烏丸からすまさんにトスするが、鈴村はセーフだ。



「ボールをぞんざいに扱ったら、霊に呪われますかね?」


「大丈夫やで。ここらの霊は自分の主張を、誰かに聞いてももらいたいだけやからガァ」



 ハァ。何で試合中に呪いを心配せにゃならんのだ。



水宮みずみや君、ぽっぽっぽっ!」

水宮みずみや君の体貸してぇん!」



 スタンドから呪いの言葉が聞こえてくる。あああ、無視だ、無視!



 次の中田がライトフライに倒れて、この回は0点で締めた。



(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る