437球目 ノーコン投手は対策のしようがない

 5回裏にマウンドに登った番馬ばんばは荒れに荒れた。



 先頭の中田を四球で出すと、白木しらきは三振、友永ともながは四球、鮎川あゆかわは三振、福口ふくぐちは四球、2死満塁の大ピンチを作った。



 150キロ近い豪速球にすっかりビビり、誰1人としてバットを振っていない。村下むらした監督の貧乏ゆすりが止まらない。



「実に不愉快だ。こんな無策の試合は初めてだ」



 村下監督は栄咲えさきを手招きして指示を与える。



番馬ばんばがいくらアホでも、ここはストライクを確実に取りにくる。高目に甘く入ったストレートを打て」


「はい!」



 栄咲えさきは2打席連続でセンターフライを打っている。外野に飛ばすことに関しては問題ない。



「ここで走者一掃のスリーベースヒットでも打ってくれたらなぁ」



 彼は蓄積ちくせきしたデータが全く使えない試合展開にイライラしていた。急造投手リレーでは、宅部やかべ水宮みずみや対策が水の泡である。



 番馬ばんばは予想どおり、甘い甘いボールを高めに投げてきた。それも山なりのスローボールである。



「ストライクッ!」


「デ、データにない!」



 番馬ばんばは今までストレートのみを投げてきた。スローボールは初めてだ。データ野球はデータにないものが出てくると、実にもろい。



 スローボールを4球連続で投げ、カウントは2-2になる。栄咲えさきの目はスローボールに慣れてきた。



「うおりゃあああボケェェェェェ!」



 番馬ばんばが吠えて豪速球を投げる。MAX150キロのストレートが火星ひぼしのミットに入る。



「ストライクアウトォ! チェンジ」


「しまったぁ!」



 栄咲えさきは苦虫をつぶした顔でベンチへ戻る。



上村うえむら! 栄咲えさきに替わってセカンドだ」

「はい!」

「申し訳ありませんでした!」



 村下監督は謝罪する栄咲えさきに目もくれない。無策の三振は、彼が1番嫌いだ。また、指示どおりに動かない選手は、例え4割打者や無失点投手でも、すぐにベンチに引っ込めてきた。



(続く)

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