435球目 牽制で刺されたくない

 5回表の先頭打者・千井田ちいださんは、ベース寄りに立って、キャッチャーを隠すように構える。インコースを投げづらくさせる作戦だ。



 コントロールに自信のある大柴おおしばは動じることなく、インコースを攻める。初球は内角低めインローのストレートでストライク。2球目は――。



「デッドボール!」



 千井田ちいださんの右ひじにスッポ抜けのボールが当たった。彼女は少し顔をゆがめたが、すぐに軽やかな足取りで1塁へ向かう。



牽制けんせい球に気をつけて下さいよ」


「わかっとるやん」



 1塁ベースコーチの俺は千井田ちいださんに盗塁の指示を出せる。少しでも大柴おおしばの投球モーションがぎこちなかったら、GOサインを出すつもりだ。



 大柴おおしばは左足を上げて、ファーストへ投げてきた。



「バック!」

「みゃあ!」



 千井田ちいださんは1塁へ戻らず、2塁へ走り出した。ファーストは慌てて2塁送球。セカンドがタッチしにいくが――。



「セーフ、セーフ!」



 間一髪のタイミングだ。チーター化していたら楽々だが、2回の投球で3回とも使っちまったからなぁ。



 3盗は狙わせず、火星ひぼしの送りバントで3塁に進めた。



「8番ファースト真池まいけ君に替わりまして、ピンチヒッター烏丸からすま君」



 チャンスに強い烏丸からすまさんが打席に入る。



(続く)

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