434球目 バントマンは怪力に逆らえない

 1イニングごとにピッチャーを替える。これが俺達のデータ野球かく乱作戦だ。データにない投手の攻略にとまどう内に、また次の投手に替わる。これで最少失点に抑えるはずだった。



 実際は4回表終了時点で0-2。相手も一回りごとにピッチャーを替えられるから、こっちが不利だ。もう1点も与えたくない。



「みんな応援ありがとー! ステキなピッチング見せるわ」



 山科やましなさんがムダにキラキラしながら投げ出す。彼は自慢の強肩を活かして、MAX145キロの速球を投げる。大柴おおしばはキャッチャーファールフライに倒れた。



「キャーキャー! もっと投げてぇー!」


「しびれるぅ! 死ぬぅ!」


「よっしゃ! 150キロ出しちゃうぞ!」



 気を良くした山科やましなさんはポンポンとストライクを取りに行く。利根橋とねばしは打ちにいったが、ライトフライに倒れた。



「8番ファースト鈴村すずむら君」



 左打席に入った俊足・鈴村すずむらはまともに打ちにこないだろう。彼はサード方面にセーフティーバントしてきた。



番馬ばんば様ぁ!」


「任せぇ! 殺す!」



 番馬ばんばさんがボールを素手で捕り、そのままファーストへ投げた。矢のような送球が真池まいけさんのグローブに入る。



「アウト! チェンジ」


「いっでぇえええ! ファッキン!」



 真池まいけさんがその場でしゃがみ込む。俺と津灯つとうが駆け寄れば、彼は青ざめた顔で左のグローブを腹でかかえている。



真池まいけさん、左手見せて」



 グローブを取れば、左手が真っ赤にれ上がっている。これはプレイ続行不可能だ。



「監督! 真池まいけさんダメです」


「あらら。じゃ、烏丸からすま君が入って、ファーストに火星ひぼし君ね」


「そして俺様がピッチャーっちゅうワケやな」



 番馬ばんばさんがすっくと立ち上がって、シャドウ・ピッチングを繰り返す。



 大ノーコンの番馬ばんばさんがピッチャー? 寿命が縮むからやめてほしい。



(続く)

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