408球目 悔し泣きは美しくない

<打球はセンター前へ! サヨナラ、サヨナラです! 何という幕切れ! こんな試合が今まであったでしょうか? 良徳りょうとく学園の刈摩かるま君、あと1球で完全試合パーフェクトゲームから一転、サヨナラ負けです!>



 園田そのだが理事長夫人を見れば、口を大きく開けて魂が抜けていた。彼は「俺のラグビー部監督は白紙かもなぁ……」とつぶやく。



※※※



 刈摩かるまはマウンドでうずくまり、微動だにしない。



刈摩かるま様、すまない。俺達がもっと点を取ってたら」


「ナイスピッチングやったで」


「胸を張るんや、胸を!」



 先輩から激励の言葉をもらっても、刈摩かるまは一向に立ち上がろうとしない。彼はしゃくり上げて声を出す。



「じ、自分のせいで、自分で片付けようとして、先輩たちの甲子園が……」



 彼は美しく勝つことにこだわり過ぎた。バックを信頼して投げれば、結果は変わっていたかもしれない。だが、今さら気づいても後の祭りだ。



「しゃあないなぁ、刈摩かるま。俺がおぶったる」



 神川かんがわがカンガルー化して刈摩かるまを背負う。スタンドからは拍手が巻き起こる。



刈摩かるま様、よく頑張ったわぁ!」


「次こそ甲子園出場やぁ!」



 彼は人目を気にせずにむせび泣く。他の良徳りょうとくナインも涙が止まらない。尊宮たかみや監督は天を仰いで、大きなため息を吐いた。



※※※



 準決勝も勝った。本当に信じられない。



 今まで何度も負けそうな試合があったが、誰かが流れを変えて逆転勝ちしてきた。12人全員の力でつかんだ決勝進出だ。



明後日あさっても勝って、野球部の力を見せつけようね!」



 津灯つとうの言葉で、俺達は拳を高々とかかげる。



 次も絶対に勝つぞ!



良徳学園000 000 001………1

浜甲学園000 000 002×……2



(6回裏終了)

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