406球目 特別代走は多用できない

「イタタタタタ。すみません、足くじいちゃいました」



 本賀ほんがが左足を引きずりながらベンチに戻ってくる。代走要員の千井田ちいださんは取塚とりつかさんと交代してベンチに下がってるので――。



火星ひぼし君、特別代走ね!」


「了解」



 高校野球では、ランナーが軽いケガをした時に、そのランナーの前のバッターを代走に出せるルールがある。特別代走を出された人は、次の守りで復帰できるので、人数の少ないチームにはありがたいルールだ。



 うちの場合、もう交代可能な選手がいないので、本賀ほんがさんが出場不可になれば、没収試合で敗北する。本賀ほんがさんの足、治ってくれー。



水宮みずみや君。刈摩かるま君は初球、何を投げると思う?」


「うーん。熱血バッテリーなら、さっき取塚とりつかさんが打ったのと同じボール投げてくるけど……。刈摩かるまのことだから、意地悪なボール投げてくるかもな」


「わかった。イメージついたわ。ありがとう」



 意地悪なボールという曖昧あいまいな表現で良かったのかな。



 刈摩かるまは無表情でセット・ポジションにつき、津灯つとうは少し口元を緩めてバットを構える。緊張の一瞬。運命の1球がリリースされた。



 津灯つとうのバットが動く。刈摩かるまのボールも動く。外へ逃げるカーブだ。



 津灯つとうは体勢を崩されながらも、カーブをすくい上げて打った。打球はレフトへ勢いよく転がる。レフトの赤紫谷あかしやが捕ってホームへ。マズい、火星ひぼしがホームで刺される!?



(続く)

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