405球目 ノーヒットノーランをノーノーと略したくない

 取塚とりつかさんは「一本!」と叫んで流し打った。打球は三遊間を抜けていく。ノーヒットノーランを打ち砕くレフト前ヒットになった。



「やったぁ!」


「ナイスバッチン!」



 良徳りょうとく学園はタイムをかけて、内野陣がマウンドに集まる。これで刈摩かるまがマウンドを降りてくれたら、万々歳だね。



※※※



 良徳りょうとく学園の尊宮たかみや監督は迷っていた。刈摩かるま続投か、エースの青林せいりんと替えるか。



 ブルペンの青林せいりんは投げるたびに振り向き、監督をチラ見する。彼はいつでも登板OKと言わんばかりに、肩をグルグル回した。



「投げさせるか、投げさせないべきか」



 無安打無得点試合ノーヒットノーランは無くなったので、勝つために交代させてもいい。しかし、監督の脳裏に、浜甲はまこう臨港りんこうにサヨナラ勝ちした試合がよぎる。



「あの時はエースを一旦引っ込めて、ランナーをためてもうた。浜甲の勢いは、ピッチャーが替わっても止められん」



 ここで刈摩かるまを替えて勝っても、大事な場面を任されなかったことで、監督への不信感を持つかもしれない。ついに、尊宮たかみや監督は決断を下した。



刈摩かるま続投や!」



 この決断は吉と出るか、凶と出るか。



(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る