404球目 己の信念は曲げない

「ボールフォア!」



 宅部やかべさんのバットが、ハーフスイング寸前で止まった。これで2死1・2塁のチャンス拡大。



 次のバッターは取塚とりつかさんだ。グル監が彼を手招きする。



取塚とりつか君は夕川ゆうかわさんの力を使う?」


「いえ。延長戦も考えて、自力で打ちます」



 取塚とりつかさんが夕川ゆうかわさんの力を使って投げられるのは40球ほど。1打席で熱血野球少年悪霊夕川の力を使うと10球分のスタミナを消費するから、その判断は正しい。



「そう。ほな、水宮みずみや君。刈摩かるま君がどう攻めると思う?」


「えっ? 何で、俺に聞くんですか?」


「中学時代に対戦してて、何回かプライベートで会ってるらしいから、わかるかな思うたんやけどね」


「うーん。あいつなら……」



 刈摩かるまは人の嫌がることを徹底して行う。取塚とりつかさんは左バッターだから、インコースに食い込むシュートを投げるか。



「いや、待てよ。奴の美学は、最後に自分の最も得意なボールを投げることです。アイアンボールはもう投げられないから、クロスファイアー、外角低めアウトローのストレートを投げてきます!」


「わかった。それを上手いこと打つわ」


「ありがとう、水宮みずみや君」


「当たるかどうかわかりませんよ」



 俺が眉をひそめて言えば、津灯つとうが目の前にひょっこり顔を出して笑う。



「大丈夫。あたし達、水宮みずみや君のおかげでここまで来られたもん。水宮みずみや君の判断で負けるんなら、しゃあないよ」



 俺としては、まだここで終わりたくない。



 取塚とりつかさんは2球連続で見逃し、0-2に追い込まれる。



 刈摩かるまのフィニッシュボールは何か。投げた。速い。予想通りの外角低めアウトローのストレートだった。



(続く)

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