402球目 刈摩の目標は果てしない

※今回は良徳りょうとく学園の刈摩かるま百斗ももと視点です


 小さい頃から、父上は雲の上の存在だった。



 大企業を束ねるKグループのトップとして日々働き、家に帰るのは月に1度だけ。私の成績表を見て、「よく頑張っているな。これからも努力を続けなさい」と一言発言するのが、定番だった。



 勉強を積み重ねていけば、将来の自分がどうあるべきかが見えてくる。おそらく、私はKグループ代表を継ぐのにふさわしくない。歴史は、世襲せしゅう制の弊害へいがい雄弁ゆうべんに語っている。もし継げたとしても、ことあるごとに父上と比べられて、精神を病むだろう。



 父上と別の道を進むにしても、その他大勢の一般人にはなりたくなかった。出来ることならば、歴史に名を残したい。そこで、私が目をつけたのが、野球だった。



 日本を代表する名投手になり、メジャーでも数多の大記録を残す。さすれば、モモト・カルマの名は永遠に語り継がれるであろう。



 私はプロ選手を多数輩出した良徳りょうとく学園に入学し、その圧倒的な実力を持って、春季大会からマウンドに上がった。



 今年の夏は古豪・冠光かんこう学院を相手に無安打無得点試合ノーヒットノーランを達成し、今の試合では1人の出塁を許さぬ完全試合パーフェクトゲームを継続中である。



 東代とうだいの代打の本賀ほんがも0-2に追い込んだ。打たれることはないと思うが、石橋を叩いて渡るに限る。



 1度も打たれたことがないアイアンボールで、ゲームセットにさせる。



 本賀ほんがのバットは鈍い音を立てる。打球はサードの花名はなめさんの前へ転がる。



 私は勝利を確信して、左手を高々と上げた。



(続く)

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