401球目 いくら粘ってもアウトにならない

 火星ひぼしはオラゴン星人に野球の面白さを伝えるため、是が非でも打ちたいと思っていた。自分が起死回生の一打を放ち、面白さに真実味を持たせるのだ。



 刈摩かるまの投球数は100を超え、高速シュートとスライダーのキレが悪くなる。ストレートも140キロを超えなくなった。火星ひぼしのバットは容赦ようしゃなく打っていく。



「ファール!」



 カウント0-2から8球連続でファール。火星ひぼしの第3の目が妖しく光る。どの球種もカットされた刈摩かるまはもう投げるボールがない。



「ど真ん中ストレート来い、刈摩かるま!」



 神川かんがわはど真ん中に堂々と構える。刈摩かるまはうなずいてから、投げ始める。ヒジの曲がりが悪くなり、全盛期は頭の後ろに隠れていた指の握りが、バッターから丸見えだ。ストレートだ。



 火星ひぼしは全身全霊でバットを振る。だが、ボールが届かない。刈摩かるまはストレートの握りで、スローボールを投げてきたのだ。



「ストライク! アウトぉ!」



 火星ひぼしは自分の頭をバットで叩きながら、ベンチへ戻った。



(あと1人アウトで野球部廃部)

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