400球目 初めてのキスはタバコのフレーバーがしない

 運命の最終回、先頭打者は烏丸からすまさんだ。



「もし烏丸からすまさんが出塁したら、キスしてあげる」


「キ、キ、キスぅ!?」



 津灯つとうラブな烏丸からすまさんは顔が真っ赤になり、両手をバタつかせて舞い上がる。この打席は期待できるか?



「カッカッカッ! 打つ!」



 ここまでの烏丸からすまさんはファーストゴロと三振。バットに当たる確率は少しある。どんな形でもいいから出てくれー。



 刈摩かるま烏丸からすまさんの変貌へんぼうぶりに警戒して、3球連続でボール球を投げた。四球フォアボールを出したら完全試合パーフェクトゲームが無くなるのに、よほど自分のコントロールに自信があるのだろう。



刈摩かるまぁ! おくせずズバンと決めぇ!」



 キャッチャーにげきを飛ばされて、刈摩かるまは深々とうなずく。4球目に選んだのは外の――。



「ファール!」



 ストレートか高速シュートのどっちかが、烏丸からすまさんのバットに当たった。あと少しバットの出が速かったら、ライト線ツーベースヒットになっていた。



「打て打て烏丸!」


「かっとばせーかーらすまっ!」



 球場内の応援の熱量が増していく。烏丸からすまさんの足もステップを踏んでノリノリになる。



 刈摩かるまは疲れを見せぬポーカーフェイスで、第5球を投げる。



「ストライク!」


「カァー! しまったぁ!」



 内角低めインローに食い込むストレートにバットが出なかった。あのクロスファイヤーは打てんわ。



 もう烏丸からすまさんは打つしかない。6球目に選んだのはゆるゆるのチェンジアップだった。



「クカァ」



 烏丸からすまさんのバットは泳ぎ、セカンドへのゴロになった。セカンドが難なくさばき、ファーストもガッチリつかむ。ワンアウトだ……。



「キス、キス、キスがぁ……」



 烏丸からすまさんはベンチの隅へ行き、さめざめと泣くばかりだ。こっちも泣きたくなるよぉ。



(あと2人アウトで野球部廃部)

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