399球目 データは嘘をつかない

 浜甲はまこう学園の理事長室にて、柳生やぎゅうアンナは神輿みこしをかつぐがごとく大喜びしていた。



「勝った、勝った! これで浜甲はまこう学園野球部は廃部よ! ざまぁみろ!」


「あ、あのぉ、まだ勝利を確信するのは早いと思いますが……」



 園田そのだが恐る恐る言うと、アンナは彼をキッと睨む。



「だまらっしゃい! 平凡なピッチャーならともかく、今日の刈摩かるま君はパーフェクトよ! 打率2割のヘボバッターが打てるワケないわ!」


「そ、そうですねぇ、はい。大丈夫と思います……」



 今まで浜甲はまこう学園は9回2アウトの絶体絶命の場面から、大逆転勝利を何回かやっている。だからこそ、園田そのだはゲームセットが聞こえるまで、気が気でならなかった。もし浜甲はまこう学園がサヨナラ勝ちしようものなら、理事長夫人は完全に壊れてしまうだろう。



※※※



 外野スタンドにて、神戸こうべポートタウン大付属の村下むらした監督と福口ふくぐちキャプテンが、良徳りょうとく浜甲はまこうの試合を見守っていた。



「さぁ、福口ふくぐち君。この試合はどうなると思う」


刈摩かるまはここまでパーフェクト、12奪三振、外野に飛ばされたのは2回だけ。浜甲はまこう学園の打線が、1イニングで彼を攻略するのは不可能でしょう。よって、良徳りょうとく学園の勝ちです!」



 村下監督は肩をすくめて、あきれ顔になる。



「やれやれ。君はチームをまとめるのは上手いが、データをまとめて活用するのは下手だね」



 福口ふくぐちはムッとして頬をふくらませ、反論を述べた。



「お言葉ですが、刈摩かるまはまだ100球しか投げてませんよ。この前のノーノー時も109球なんで、スタミナ面に問題ないですよ!」


「そうかな? ならば、今までの刈摩かるま君の投球内容を確認したまえ。赤のラインで囲った範囲内が、刈摩かるま君の投げたところだよ」



 福口ふくぐちはスコアブックのコピーを渡される。彼は刈摩かるまの投球内容を穴が開くほど見る。



「あっ! 最後のイニングの投球内容が悪い!」


「その通り。川西かわにし北戦はヒット、須磨すま薫風くんぷう戦は2ベースヒットと四球フォアボール昇陽しょうよう姫路ひめじ戦はヒット2本と四球フォアボール、前の冠光かんこう学院戦にいたっては2個の四球フォアボールを出しているよ」


「ということは、この回の刈摩かるまは崩れる? でも、打率2割の烏丸かるまや1割の火星ひぼしでは力不足と思いますが……」


「もう1つ、刈摩かるま君は今まで完全試合パーフェクトゲームを1度もやったことがないんだよ」



 村下監督はハイエナのように意地悪く笑い、マウンド上の刈摩かるまを見ている。



(続く)

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