398球目 津灯の逆鱗に触れたくない

「甲子園行きたないの? 行きたなかったら、すぐあの世行って!」



 津灯つとうがこんなにブチ切れたのは初めて見た。さすがの夕川ゆうかわさんも申し訳なさそうに目を伏せて、「ごめん」と小声で言う。



「と、とにかく、締めましょう」


「お、おう」


「うん」


「OK」



 他の皆もすっかり委縮いしゅくしている。これでエラーしなければいいが……。



 次の花名はなめはスローカーブを引っかけてショートゴロ。津灯つとうは落ち着いてさばき、俺へ送球する。



「アウト!」



 まずはワンアウト。取塚とりつか夕川ゆかわ)さんの表情は、少し落ち着きを取り戻している。



 刈摩かるまの打球は浅いレフトフライ。烏丸からすまさんがグローブでしっかりキャッチ。ツーアウトまで来た。



 4番の神川かんがわはバットを3回振ってから打席に入る。



「さぁさぁ来いや! ホームランやぁ!」



 カンガルー化を使い切った神川かんがわは怖くない。初球のスローカーブを見逃し、2球目のストレートを空振って0-2だ。



「クッソがぁ……。次は打ったる」



 3球目はスローカーブ。バットの出が遅くて三振すると思われたが、瞬時にバットを止めて当ててきた。またセーフティーバントか。



 しかし、打球はピッチャー真正面。取塚とりつか夕川ゆうかわ)さんが捕って、ファーストの俺へ送球する。



「アウト! チェンジ」



 良徳りょうとく学園に1点取られただけで済んだ。しかし、9回裏に1点返さなければ、負けてしまう。



 今日はヒットどころか、1塁に出ることすら出来ていない。しかも、打順は7番の烏丸からすまさんからだ。もう勝ち目はないのだろうか……。



(続く)

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