395球目 悪霊を調子に乗らせない

 前の試合で10点を入れた浜甲はまこう打線は、刈摩かるまを打ち崩せない。8回まで1人の走者を出せず、パーフェクトに抑えられていた。



 打線の援護がなくても、夕川ゆうかわいた水宮みずみやは懸命に投げる。5回の大ピンチを乗り切った後は、1本のヒットも許さない好投をする。



「ミス・イイボ―、そろそろミスター・トリツカにチェンジして下さい」



 8回裏の攻撃中に、東代とうだい飯卯いいぼう監督に進言する。



「何で? まだ同点で、水宮みずみや君の投球数は80よ」


バットしかし、ミスター・ミズミヤのボディはリミット限界が来ています。5回のマックスは147キロ、ミニマム最低は102キロ、ソーそして、8回のマックスは140キロ、ミニマムは115キロ、スピードのレンジが狭くなっています」


「ストレートが走らなくなり、チェンジアップが上手く抜けなくなってるということね。棒球になって打ち込まれる前に替えた方がいいわね。夕川ゆうかわさん、取塚とりつか君にき直してくれる?」


「こ・と・わ・る!」



 水宮みずみやはうすら笑いを浮かべて、監督の要求を突っぱねる。



「俺はこの体が気に入ったんや。甲子園行くためやったら、取塚とりつかより水宮みずみやに憑いてた方がええ」


「んなアホな! そんなことしたら、水宮みずみや君の魂が眠ってまうやろ!」



 烏丸からすまが口ばしを挟んでも、水宮みずみや夕川ゆうかわ)は一切悪びれることなく、胸を張って答える。



「ええやん、別に。幽霊にマウンド譲るような軟弱な奴なんか、ずっと眠ってもらった方がええて」


「この悪霊ガァ!」



 烏丸からすまはバッグから数珠じゅずを取り出して、水宮みずみや夕川ゆうかわ)を睨みつける。悪霊は不敵な笑みを浮かべて続ける。



(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る