394球目 アイアンボールを飛ばせない

 水宮みずみやの体を手に入れた夕川ゆうかわは、最高にハイな気分になっていた。



「この体、めっちゃええなぁ。うへへへへ」



 彼は常に笑顔でバットを振りまくる。神川かんがわは彼を気味悪がって、早くアウトにしたいと思った。



 刈摩かるまは明らかなボール球を投げて、カウントを悪くする。3-1になったところで、チェンジアップをど真ん中低めに投げる。



「ストライク!」


「くわぁ! ギリギリ入ったかぁー!」



 水宮みずみやが天を仰いで悔しがる。刈摩かるまは少し口角を上げ、神川かんがわの返球を捕る。



「次で決めるよ」



 刈摩かるまはリリースする瞬間、ボールを鉄球に変えた。彼のウイニングショットのアイアンボールだ。



「くっ、うぐっ」



 水宮みずみやは打ちにいくが、ボールの重さに負けて、セカンドへのゴロになった。刈摩かるまは指を鳴らして、鉄球から元の硬球に戻す。料里りょうざとが捕ってファーストへ送球。



「アウト!」


「くっそおおおお! 普通の球やったらホームランやのにぃー」



 水宮みずみやは負け犬の遠吠えを上げてベンチへ戻った。



「私の勝ちだね、水宮みずみや君」



 刈摩かるまは紫のハンカチで額の汗をぬぐい、涼しい笑顔を浮かべる。



(続く)

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