393球目 カンガルーは後ろに下がれない

 東代とうだいのパスボールに乗じて、3塁ランナーの神川かんがわはホームへカンガルー走りする。



「先制点やぁ!」



 カンガルーの脚力なら、楽勝でホームインできると思われた。しかし、このグラウンドには、カンガルーより足の速い獣人がいた。チーターの千井田ちいだである。



 千井田ちいだは目にも止まらぬ速さでボールをつかみ、走る神川かんがわにタッチしに行く。



神川かんがわ、バックバック!」


「ムリ―! カンガルーは後ろに下がれん!」



 神川かんがわ千井田ちいだが待ち受けるホームへ全速前進する。千井田ちいだはボールを持った手で、神川かんがわの出っ腹にタッチ(パンチ)した。



「アウト!」



 バッターの野馬のばは1塁に到達し、2死満塁とチャンスは続く。



 だが、9番の料里りょうざとはストレートに振り遅れ、三振に倒れた。



※※※



 5回裏は、無死ノーアウト満塁フルベースの大ピンチを0点に抑えた水宮からだ。



「っしゃあ! こいや刈摩かるまぁ!」



 水宮みずみやは大きな構えで刈摩かるまを挑発する。刈摩かるまはしきりに首をかしげる。



「おかしい。水宮みずみや君が別人みたいだ」



 刈摩かるまはわざと3-0にしてから打ち取ろうと、インコースから外れるボール球のストレートを投げた。



「おりゃあ!」



 水宮みずみやが強引に打った打球は、ライトのポールをわずかに切れてスタンドインする。浜甲はまこうの応援団からため息が漏れる。



「あとちょっとでホームランやったなぁー」



 水宮みずみやが急に熱血漢になったので、刈摩かるまはとまどいを隠せない。彼はしゃがんで紫のハンカチで口元を押さえてつぶやく。



「野球馬鹿の水宮みずみや君なんて、水宮みずみや君じゃない」



(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る