392球目 ストレートが1番打たれない

「選手の交替をお知らせします。ファースト真池まいけ君に替わって、千井田ちいだ君」



 千井田ちいだ颯爽さっそうとファーストの守りにつく。



「ファースト? 何で?」



 良徳りょうとく学園の尊宮たかみや監督は首をひねる。



「ファーストが誰であろうと、打つだけですよ」



 刈摩かるまは金の刺しゅうがほどこされたスポーツタオルで汗を拭きながらつぶやく。



「せやな。ここは前に飛ばすだけでええし」



 天見てんげんにはコンパクトに振るよう指示する。天見てんげんはバットを短く持って、水宮みずみやの投球を待つ。



「もう打たさんでぇ」



 マウンドの水宮みずみやは余裕の笑みを浮かべて、投球モーションに入る。腕を振って投げたのは、渾身こんしんのストレートだった。



「ストライク! アウッ!」


「えっ? はっ?」



 球速表示は147を記録。天見てんげんはバットを振ることすら出来なかった。



 次の友知ともちは107キロのチェンジアップを見逃す。山なりでブレーキがきいて、打ちにくいボールになっていた。



野馬のば、ピンチヒッターだ」



 尊宮たかみや監督は速球に強い野馬のばを代打に出す。野馬のば水宮みずみやの140キロ超のストレートを3球連続でファールにした。



 5球目、外に逃げるスライダーを投げた。ボールは野馬のばのバットに当たらず、さらに東代とうだいのミットにも入らなかった。



(続く)

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