390球目 俺のボールが通用しない

「7番ファースト天見てんげん君」



 いかにも打ちそうなガッチリした体型の男が打席に入る。東代とうだいがタイムを取って、マウンドに駆け寄ってきた。



「ミスター・ミズミヤ、一生懸命リードしますので、コントロールにケアフリー注意深くしながら、パワフルなピッチングして下さい」


「おう、わかった」



 とは言うものの、今の俺のボールで良徳りょうとくのバッターを抑えられるだろうか。



「ほっしゃあ!」



 天見てんげんは一声吠えてから構える。こっちをむっちゃ睨んでくる。ヘビに睨まれたカエルになるなよ、俺。



 初球は外角低めアウトローのストレート。力一杯投げるのみだ。



 天見てんげんは初球から打ってくる。打球は快音を残して、1塁側の良徳ベンチに入った。



「ファール!」


「前へ打たんかい、前へ!」


「すみません」



 帽子を取って監督に謝るとは、礼儀正しいな。いやいや、感心してる場合じゃない。



 2球目は内角高めインハイに食い込むスライダー。鋭く変化したが――。



「ファール!」



 今度は3塁側の浜甲はまこうベンチに入った。鉄家てつげ先生が素手でボールをつかんでいる、スゲェ。



 3球目は低めに落ちるチェンジアップ。力を抜いて投げたつもりが、ホームベースに叩きつけてしまう。



「ボール!」



 ストレートとスライダーは打たれ、チェンジアップはボールに。だが、まだ俺にはバルカンチェンジがある。



「ファール!」



 あまり変化せず、真後ろに打たれてしまった。もう投げる球種がない。目の前が真っ白になる。



 俺はタイムを取ってベンチへ走る。取塚とりつかさんの前に立ち、手を合わせてお願いした。



「すみません。夕川ゆうかわさん、俺に憑いて下さい!!」



(続く)

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