389球目 いつもバントとは限らない

 良徳りょうとく学園はランナーが出れば、積極的にバントで送ってくる手堅いチームだ。



 有江ありえは最初からバントの構えをしている。ファーストとサードはやや前進。何としても2塁でカンガルー男をアウトにしたい。



 この場面じゃ、ど真ん中ストレートのサインは出ない。低目のスライダー。横に動くボールを殺すのは難しいからな。



 指の強弱に気を付けながら、スライダーを投げる。



 すると、有江ありえはバットを引いて打ってきた。バスターだ!



 打球は番馬ばんばさんの横を抜けて、3塁ベースに当たった。これではランナーもバッターも殺せない。



 無死1・2塁で輪田わだがバントの構えをする。今度は本物のバントだ。棒立ちの姿勢で、スパイクのつま先がピッチャー方向に向いている。ここからヒッティングは不可能だ。



 今度はきっちり送ってきた。真池まいけさんがボールを捕りに行く。



「あっ、あれ? 消えた?」



 急にボールが消えた。真夏の怪事件と思いきや、ゆっくりと地面の一部が白くなってボールが現れた。真池まいけさんが拾った時には、全員が次の塁に到達していた。



「さすが輪田わだぁ! 数秒間だけ半径1メートル以内の物体を透明に出来る超能力、サイコーやでぇ」


「シー! 黙れ、脳筋カンガルー!」



 してやられたぁ! これで最悪の無死ノーアウト満塁フルベースに。ここでホームランでも打たれたら、実質的なゲームセットだ……。



(続く)

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