388球目 カンガルー化を考えない

 刈摩かるまは1回り目で浜甲はまこう打線の力量を見極めたようだ。



 宅部やかべさんと津灯つとうに対してはボールを3球連続続けてから、難しいボールで三振を奪う。真池まいけさんに対してはオールストレートで三振だ。



 あえてバッター有利カウントにしてから、ストライクゾーンを攻めるなんて、よほどコントロールに自信があるんだろう。高1じゃなくて、プロのベテラン投手の投球術じゃねぇか。



「チビ部の仲間達ぃ! ヒットの打ち方を教えたるわ!」



 神川かんがわが全身に力をこめれば、ユニフォームが爆発四散して、茶色いカンガルーボディがあらわになる。腕回りの筋肉は番馬ばんばさんに匹敵するが、腹は少しぽっこりしている。さながらプロレスラー体型だ。



 両足は大工さんみたくダボダボなズボンがぴっちりするほど、太く引き締まっている。見た目的に、キックボクシングに向いてそうだ。



 だが、どんな相手だろうと、ど真ん中ストレートだ。怖じ気づくな。



「フンガー!」



 神川かんがわが大振りのストライク。気合が空回りしてんな。



 2球目も同じ所へ。神川かんがわは「ホアッ!」と叫んでバントしてきた。



 打球は俺の前に転がる。これなら間に合う。俺はさっと拾って真池まいけさんへ送球した。



「セーフ、セーフ!」



 カンガルーの脚は速い。真池まいけさんが捕る前に、カンガルー男は1塁を飛び跳ねていた。



 一瞬にしてパーフェクトもノーヒットノーランも無くなった。何だか嫌な感じだ。



(続く)

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