368球目 セーフティーバントを厭わない

 番馬ばんばの目が点になる。今までフルスイング、三振かホームランの自分がバントなどありえない。



 かつての彼ならキレて、サインを無視していただろう。しかし、浜甲《

はまこう》学園の仲間とともに戦っていく内に、勝ち続けたいという思いが芽生えてきた。勝つためなら、自分のポリシーを曲げても構わない。



 生野いきの飄々ひょうひょうとしたサイドスローから、チェンジアップを投げてきた。番馬ばんばは荒々しく吠えながら、バントでボールを押した。



「なっ、何ぃ!?」



 打球はショートの真部まべの前へ。彼は走ってダイレクトで捕ろうとする。



「フェア!」



 1歩及ばなかったが、真部まべはすかさずボールを握って、ファーストへ投げる。



 番馬ばんばはヘッドスライディングで、砂ぼこりを飛ばす。ファーストの緑川みどりかわは足がちぎれるぐらい伸ばして、ボールをいち早くつかむ。



「セーフ、セーフ!」



 浜甲はまこう学園は番馬ばんばの内野安打で同点に追いついた。さらに2塁走者ランナー千井田ちいだがホームを狙う。



「バックホーム!」



 緑川みどりかわは立って投げると間に合わないと判断し、右足を1塁ベースのへりにつけたまま、キャッチャーのミット目がけて投げた。



(続く)

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