366球目 満塁策は逃げじゃない

 山科やましなさんが思いっきり引っ張った打球は、3塁ベースを越え、レフト線ギリギリへ転がっていった。宅部やかべさんは余裕でホームイン。取塚とりつかさんもホームへひた走る。



「ノーカット、ノーカッ!」



 キャッチャーの十九じゅうくが捕ったと同時に、取塚とりつかさんと本塁ホームベース上で激突した。



「セーフ、セーフ!」


「やったぁ!」


「チキショー!」



 取塚とりつかさんは跳びはねて喜び、十九じゅうくは左スネを押さえて悔しがる。



千井田ちいださん、セカンドランナーね!」


「わかったですやん!」



 山科やましなさんに替わって千井田ちいださんが2塁走者ランナーになり、一打サヨナラの場面が出来上がった。



「5番ファースト水宮みずみや君」


「はいっ!」



 あっ。思わずウグイス嬢に返事しちゃった。



「かっとばせ、かっとばせ、みーずみやぁ!」



 ここでサヨナラヒット打ったら、明日の新聞に大きく載るかもなぁ。ワクワク。



「プレイ!」



 球審の声がかかると、キャッチャーが立ち上がった。



 臨港りんこう学園は俺を敬遠して、満塁策を取ってきたのだ。



(続く)


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