365球目 山科はプレッシャーに強くない

「4番センター山科やましな君」



 山科やましなさんはかなり緊張している。鉄のおもりが付けられているかのように、足取りが重い。



「キャー! 山科やましなさん打ってぇー!」



 いつもは爽やかな笑顔で女子達に応える彼が、今はずっと唇を噛みしめたまま無言だ。



 相見あいみの初球は打者のふところに食い込むスライダーだ。



「ストライクッ!」



 金縛りに遭ったように動かない。大丈夫か?



 2球目は縦のスライダー。今度も1ミリも動かない。



「ボール」



 3球目は外のストレート。



「ストライクッ!」



 山科やましなさんは打席上で石像と化している。グル監がたまらずタイムを取って、彼をベンチへ呼び寄せた。



山科やましな君? 振らなきゃ、バットに当たんないんよ。わかっとる?」


「ハイ、ワカッテマス」



 AIのような返事をする。こりゃアカン。何とかリラックスさせないと。俺は山科やましなさんがバットを振れるようなアドバイスを考える。



「そ、そうだ! 山科やましなさん、突っ立って見逃し三振はカッコ悪いですよ」


「カッコワルイ?」


「はい。まだバットを華麗かれいに振ってゲームセットの方が、カッコいいですよ。女の子たちも納得してくれます」


「バットをカレー、華麗かれい、カッコいい……。わかった!」



 山科やましなさんの瞳に光が戻った。彼はバットを一振りしてから、打席へ戻る。



「さぁ、投げたまえ!」



 山科やましなさんはウインクして、ピッチャーに手招きする。



「ハハハ。面白い人やなぁ」



 鰐部わにべが大笑いする中で、相見あいみはクールに4球目を投げる。内角高めインハイへの曲がりの小さいスライダー、カットボールか!



「打つ!」



 その時、山科やましなさんのバットが動いた。



(続く)

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