361球目 この夏を終わらせたくない

 俺は鰐部わにべにランニングホームランを許した後、井藤いふじにストレートの四球フォアボールを与えてマウンドを降りた。7回途中まで投げて7失点、6点取ってくれたのに申し訳ない、情けねぇ。



 宅部やかべさんと取塚とりつかさんが投げるも、臨港りんこう学園打線の勢いは止まらず、8回・9回に1点ずつ入れられてしまった。7回途中から生野いきの投手は人間に戻ったが、上・斜め上・横・下の4方向を軽やかに投げ分けられて、ヒットどころか塁にすら出られない。



 とうとう9回裏になってしまった。



「3点差は決して追いつけへん点差やないよ。今まで勝ってきたよね?」



 グル監が1人1人の顔を真剣に見つめてくる。



「とは言え、相手は甲子園ベスト4になったことのある強豪校。今日が浜甲はまこうのラストゲームになってもおかしない。だからこそ、悔いのないよう、自分が出来るベストのバッティングやろうね? いいね!」


「「「「「はいっ!」」」」」


「はい」


「よっしゃ!」


「了解」


「イエス!」


「カァー!」


「うみゃああ!」



 返事はバラバラだが、皆の気持ちは同じ、勝ってこの夏と野球部を終わらせない。



 先頭の火星ひぼしがことごとくボールをカットして、生野いきのに10球投げさせた。最後は三振だったが、彼なりのベストを尽くしてくれた。



 東代とうだいの代打の本賀ほんがさんは初球から打っていく。生野いきのがジャンプして捕りやがった。これでツーアウト。



 残されたアウトカウントは1つ。でも、宅部やかべさんからの好打順だ……!



(続く)

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