356球目 うさぎ跳びは体に良くない

 1点差に迫った臨港りんこう学園打線は反撃の手を緩めない。



 6回表、先頭の金文かなぶみはレフトフライに倒れるものの、生野いきのが敬遠され、十九じゅうくがバントで送って2死2塁になった。



「9番ショート真部まべ君」



 真部まべの名前が告げられると、スタンドからはタメ息が漏れた。



真部まべかぁー」


「この回で同点ムリやわぁ」



 ここまでの真部は15打数4安打の打率2割6分7厘だ。4割や5割の強打者が揃う臨港りんこう学園打線の中で、場違いな数字である。しかも4安打全てシングルヒットで、貧弱の極みである。



 そんな彼がレギュラーになれたのは、ショートの名手ぶりとチーム一の俊足だ。彼は耳と両足を白いふわふわウサギ化させて、打席に入る。



「ここでチェンジにしましょう」


「OK、OK。1点差で逃げ切るぜ」



 グローブで口元を隠していても、浜甲はまこうバッテリーの声は、真部まべの長い耳によく届く。彼は胸の内で闘志の炎を燃やす。



 水宮みずみやのストレートがど真ん中低目にくる。真部まべはそれをバントして、ピッチャー前に転がした。



「よっしゃ!」



 水宮みずみや颯爽さっそうとボールを捕りにいく。真部まべはうさぎ跳びで1塁へ向かう。ボールから逃げるウサギ足は速い。



「セーフ!」


「やりぃ!」



 真部まべは1塁上でジャンプを繰り返す。



「バックホーム!」



 2塁ランナーの生野いきのが勢いよく3塁を蹴り、ホームへ向かう。真池まいけ東代とうだいに向かって投げたが、飛んでいる生野いきのの翼に当たってしまう。



 6回表、ついに臨港りんこう学園が同点に追いついた。



(続く)

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