355球目 夢を描いた紙ヒコーキは切ない

 2死1・3塁で5番の井藤いふじを迎える。今日はファーストライナー、三振で当たっていない。



「しまっていこー!」



 俺がセンターの方を向いて、内外野に声をかければ、力強い返事がする。打たれても大丈夫だ、うん。



 初球は外のスライダー。井藤いふじのバットから逃げる。



「ウップス!」



 何と、東代とうだいのミットからも逃げてしまった。痛恨のパスボール。



 またまたまたまた1点を入れられてしまった。



「ソーリー、ソーリー、ミスター・ミズミヤ」



 東代とうだいが大げさに土下座してきた。



「ユードントハブウォーリー。次を抑えようぜ」



 井藤いふじをピーゴロに抑えて、5回裏の攻撃に移った。



 生野いきののピッチングは冴えわたり、山科やましなさんを三球三振に抑えた。



 やはり、俺が塁に出るしかない。生野いきののボールをひたすらカットして、カットして、粘り続ける。



「ボールフォア!」


「よっし!!」



 続くバッターは番馬ばんばさん。当たればホームランの強打者だが、生野いきののチェンジアップに全くタイミングが合わない。



「クソ―。遅すぎるんやぁー」



 番馬ばんばさんに悪いが、2塁へ走ろう。2死2塁で流し打ちの名手・烏丸からすまさんなら、1点入る確率が高い。



 生野いきのの投球と同時にスタートダッシュ! 2球目もゆるいチャン時アップだ。これなら悠々ゆうゆうセーフだ。



「エアプレインチェンジ!」



 キャッチャーの十九じゅうくが叫ぶと、ボールが紙飛行機に変わって弾丸のように飛び、セカンドのグローブの中に突き刺さった。



「ア、アウト」



 何というキャッチャー向きな超能力だ……。



 番馬ばんばさんも三振に倒れ、この回も0点に終わった。



(続く)

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