352球目 無能な鳥は爪を隠さない

※今回は臨港りんこう学園の生野いきの係斗けいと視点です


 高校通算39本目のホームラン! いやぁ、ホームランは何回打っても気持ちええもんですなぁ。



 1年の夏大なつたいからずっとレギュラーの鰐部の通算ホームラン数は99本。一方、俺は2年の夏大なつたいからレギュラー。打席数は圧倒的に俺の方が少ないから、ホームラン率高いと思う。すなわち、真のパワーヒッター。



 グラウンドのどこかにいるスカウトに対して、鳥なりの笑顔を作る。ピッチャーがダメでもバッターで行けることをアピったら、ドラフト指名確率アップやな。



 今日は鰐部わにべより活躍しとるから、明日のスポーツ紙が楽しみやなぁ。



生野いきの、そんなパワー持っとるとは、驚いたのう」



 監督が唇を丸めるのは珍しい。よっぱどビックリしたんか。



「能ある鳥は爪隠すんで」



 俺は口ばしの下をポリポリかきながら、鰐部わにべの横に座る。奴はいつもより猫背で、顔が白い。



生野いきの、さっき打ったん、ストレート?」



 奴は途切れとぎれに弱々しい声を上げる。



「おじぎしたストレートやろ。ピンポン玉やな」


「そうか……。おじぎかぁ……」



 元気のないライバル見るんは、実にスカッとする。次もええ気持ちで投げられそうや。



※※※



 4回裏、先頭の宅部やかべをショートゴロ、真池まいけを三振に打ち取る。



「3番ショート津灯つとう君」



 データ班が、この子は当てるの上手いって言っとったなぁ。まぁ、ストレート投げたら大丈夫やろ。



 外にストレート投げたら、流し打ってきた。



「ヤバッ!」



 サードは守乱の鰐部わにべや! 打球が鰐部わにべの口の中へ飛び込んだ。肉まんを口いっぱいほおばったようになっている。



「ペッ。ハァハァ」


「アウト! チェンジ」



 笑って開いている口にボールが入るなんて、何てラッキーな奴や。



「ハハハ。生野いきの、ナイスピッチン!」



 鰐部わにべがいつもの明るさを取り度した。次の打席はホームラン打つかもなぁ……。



(続く)

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