343球目 コースに逆らわない

 投手が首を横に振る時は、自分の自信のあるボールを投げたい時だ。



 今日の生野いきの宅部やかべさんにスライダー、津灯つとうにストレートを打たれてるから、投げるとしたらチェンジアップか。



 問題は、どの投げ方で来るか。ななめ上、横の次は下か。いや、そんな単純な攻め方をしてくるかなぁ。



 セット・ポジションから左足が上がって、右肩が沈む。アンダースローだ。



 バットをためにためて……、下から上へカキン!



 打球はライトの頭上を越えた。点がたくさん入るぞー。



 真池まいけさんがギタリストのように両ヒザで滑って、津灯つとうはスキップしながら、山科やましなさんはファンに手を振りながらホームインした。



 俺はヘッスラでサードに達した。走者一掃のタイムリースリーベースヒット! 今日はサイクルヒット狙うか?



水宮みずみやぁー、ナイスバッチン!」


水宮みずみや君愛してる、ポポポポポポ!」


水宮みずみやサイコー!」


「甲子園行ったら、体使わせてねー」


「いいぞいいぞ水宮みずみや!」



 何かヤバイ声が聞こえてきたが、気にしたら負けだ。



 番馬ばんばさんが三振に倒れるも、烏丸からすまさんが外のスライダーをライト前へ流し打った。俺は普通に走ってホームイン。



「プロ注目のピッチャーから5点も取っちゃったね」


「今日はあたいの出番なさそうやん」


「私もなさそうやから、本読んどこ」



 女子3人組は余裕のよっちゃんである。グル監はやたらとダミーのサインを連発してるし、鉄家てつげ先生は座禅を組んで瞑想している。おいおい大丈夫か、こんな楽勝ムードで。



 俺の心配と裏腹に、試合は浜甲はまこうペースで進む。



 火星ひぼしが得意の四球フォアボールで出れば、東代とうだいがバントで送り、宅部やかべさんがストレートの四球フォアボールで出る。



 真池まいけさんが「アイルビーゼア!」と叫んでバントすれば、1塁セーフになって6点目が入った。



 ここで、臨港りんこう学園ベンチから伝令が出てきた。ピッチャー交代か。勝ったな。



(続く)

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