339球目 鰐部との勝負を避けない

 鰐部わにべ大琉だいりゅう。右投右打のパワーヒッターで、高校通算ホームラン数は99本。ストレートやスライダーなどの速い球にめっぽう強く、チェンジアップやスローカーブなどの遅い球に弱い。春の八木やぎ学園戦では、木津きづの遅いボールでノーヒットだった。



 しかし、今年の夏は遅いボールをカットする技術を手に入れ、ガンガン打っている。緩急かんきゅうの揺さぶりは通用しない。



 コントロールミスは許されないんだ。内のボールゾーンへストレートを投げぬけ。プレートの右端を踏んで投げる。



「ハッ!」



 ライナー性の打球がレフトスタンドへ飛んでいく。明らかなファールだ。命拾い。もしストライクを取りに行ってたら、ホームランだ。



 2球目は外角高めのスライダー。これも打ってきて、真池まいけさんの横を抜けるファールボールに。



 3球目はチェンジアップを、ワンバウンドするぐらい低目へ投げる。鰐部わにべのバットが途中で止まる。



「ボール」



 変身していなくても、パワーと選球眼がプロレベルだ。満賀まんが校の龍水りゅうすい以上の強打者だ。



 4球目は明かに高いボール球。東代とうだいが立ち上がって捕った。鰐部わにべは世界的に有名なネズミキャラばりの甲高かんだかい笑い声を上げた。



 3・4球目のボール球は、鰐部わにべとの勝負を避けたように見せるフェイクだ。5球目にあのボールで決める!



 バルカンチェンジ、いざ、リリース!



 甘いストレートが来たと思ったが、鰐部わにべはよだれを垂らして振ってくる。だが、バルカンチェンジは彼のバットをすり抜ける。



「ストライク、アウト! チェンジ」



 プロ注目の打者から三振を奪った! 俺はマウンド上で、右手でグローブを叩いて喜んだ。



(続く)

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