335球目 バルカンチェンジを出し惜しみしない

 臨港りんこう学園の生野いきの対策で、スリークォーターの木津きづ八木やぎ学園)、サイドスローの黒炭くろずみ満賀まんが)、アンダースローの豊武とよたけ六甲山ろっこうさん牧場)を打ち込めて、とても有意義な練習になった。



 しかし、いくら生野いきのを打ち崩しても、臨港りんこう学園の超強力打線にボコられたら意味がない。特に、4試合で13打数8安打5ホーマー23打点というプロ注目の強打者・鰐部わにべは脅威だ。



「ワニベは、バットコントロールとパワーがハイレベルなバッターです。マンガ・ハイスクールのリュースイにセイム似てるです」


「そんなバッターを抑える方法はあんのか?」



 東代とうだいはボールを持って、奇妙な握りをする。1回戦以降、封印してきたバルカンチェンジだ。



「ワニベオンリーにバルカンチェンジを使います。彼はストレート系のボールが好きで、ボールゾーンに来てもヒッティングしてきます。ストレートやスライダーでカウントを稼ぎ、ラストにバルカンチェンジでアウトにしましょう」


「なるほど。で、その対策として、あの人がピッタリってことね……」



 俺は打席の尺村しゃくむらを見る。彼女はパワーアップしていて、1度に3人の魂を吸い込めるようになっていた。かわいそうだが、ミート力の高い宅部やかべさんとパワー馬鹿の番馬ばんばさんを、彼女に吸い込ませていただいた。



「ミスター・ミズミヤ、バルカンチェンジをローコースにピッチングして下さい。アーユーOK?」


「OK、OK。任せとけ」



 グローブの中で、薬指と中指を広げ、人差し指と親指で〇を作って、バルカンチェンジの握りを作る。難しい! 明日の試合までに、素早く握れるようにならないとね。



 チェンジアップの要領で投げ、高目に浮いちまった。



「ポポー!」



 尺村しゃくむらが強振すると、打球はピンポン玉のように、フェンスの上段まで飛んだ。ホームランボールが校舎に入らないように設置されたクソ高いフェンスだから、合っているかわからないが、甲子園球場のセンターのスコアボード上段ぐらいまで飛んだと思う。



「ミスター・ミズミヤ、リラックス、リラックス!」



 肩の力を抜いて投げるも、尺村にことごとく打たれる。内野ゴロになることもあるが、8割ぐらい外野に飛ばされる。



水宮みずみや君、手のひらにカタカナでネコと10回書いてなめてみたら?」



 津灯つとうがニコニコしながら、変なアドバイスをしてきた。



「人じゃなくて、ネコかよ……」


「やってみて!」



 ワラにもすがる思いで、ネコネコネコネコネコネコネコネコネコネコと、10回手のひらに書いて、なめてみた。目の前にいるのは尺村しゃくむらじゃない、メカクレネコだ、ネコ! にゃあああ!!



 不思議なことに、俺の頭の中がたくさんの猫や、陸上部のネコ耳男子、チーター姿の千井田ちいださん、トラ塩であふれ、尺村しゃくむらへの恐怖がなくなった。



「ストライク!」



 初めて“強打者”の尺村しゃくむらからストライクを奪えた。にゃんこ効果は凄い!!



(続く)

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