322球目 連合チームは一枚岩じゃない

「ギエアアアアアアア!」



 瀧口たきぐちはジェットコースターの悲鳴を上げて、バックネットの金網まで吹っ飛んだ。ダンプカーのごとき番馬ばんばの体当たりに耐えられるキャッチャーは、六甲山ろっこうさん牧場の戸神とがみ良徳りょうとく学園の神川かんがわぐらいだろう。



 こうして、7回裏、浜甲はまこう学園は烏丸からすまの2点タイムリーで同点に追いついた。



「何で送球まっすぐ投げられへんねん!」


「だって、ノーカットやと思ったもん。瀧口たきぐちの判断ミスや!」


「2人ともケンカやめろよ」



 瀧口たきぐちがよろめきながら片和田かたわだ奥良おくらに近づいて言うが、逆に2人からにらまれる。



「こうのとりのお荷物は黙っとれ!」


「せやせや! あんたのリード悪いから、ボコ打たれすんねん」


「何やとぉ!? キャッチャーやったことないクセに、えらそうなこと言うな!」



 ここで、連合チーム最大の欠点があらわになった。



 2人の好投手がいる須磨すま海浜かいひん、打撃に自信のある尼崎あまがさき双葉そうよう、守備がまぁまぁ上手いこうのとりの3校が力を合わせれば、強豪きょうごう校レベルだ。しかし、ずっと一緒に練習していないので、仲間割れを起こしやすい。


 この場面で入った亀裂きれつは、兵庫連合に悪い流れをもたらす。



 7回裏は2点でとどめたものの、8回裏は先頭・宅部やかべのショートゴロを片和田かたわだがエラーする。続く、代打・本賀ほんがのピッチャーゴロを、奥良おくら瀧口たきぐちの指示を無視してセカンドに投げたが、宅部やかべの足が勝り1塁・2塁オールセーフになってしまう。



 ここで、瀧口たきぐちは内野手全員をマウンドに集める。



「この試合、勝ちたいか?」



 彼の問いに、皆が押し黙っている。



「ここで負けたら、来年以降もこうのとり・須磨すま双葉そうようどっこも部員入らへんやし。それでもええんですか?」


「それは嫌や!」



 奥良おくらはがらんどうとした母校のグラウンドを思い出して、首を横に振る。



「なら、勝つぞ。勝つ、勝つ、かぁーつ!!」


「「「「「勝つ!!」」」」」



 全員が拳を天にかかげる。高校は違うが、勝ちたい思いは同じだ。



(続く)

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