320球目 試合中の悪霊退治は派手にしない

 烏丸からすまはチームのため、津灯つとうのためにヒットを打とうと意気込んでいた。



 打率は2割台の彼だが、ここ1番で打つことに定評がある。



番馬ばんばの怪力、山科やましなの誘惑、さすがやな。俺っちに出来るのは、妖怪退治! 審判、ターイム!」



 彼は打席に入るやいなや、タイムを取った。マウンドの奥良おくらの方へ歩み寄る。



「ちょっ、何なん、あんた?」


「最近、肩が重ないか?」



 奥良おくらは少し肩を回して、首をかしげる。



「うーん。言われてみれば」


「悪霊が憑いとるんや。払ってあげる。破邪はじゃ悪滅あくめつ!」



 彼が奥良おくらの右肩を瓦割りのように叩けば、灰色の能面のような霊が空へ消えていった。



「あら? 何か肩が軽なった気ぃする。ありがとね」


「コラ―! なぁにやっとんねーん!」



 番馬ばんばに叱られても、烏丸からすまは全く動じない。彼は満足げな顔で打席に戻った。



 除霊じょれい後の奥良おくらの初球は、脂が乗っていた。ミットにボールが吸い込まれる。



「ストラック!」



 1塁・2塁ランナーが同時に走る。瀧口たきぐちは「クソッ!」と叫んで、サードへ投げた。しかし、糸森いともりの3塁への入りが遅かったので、山科やましなを刺せなかった。



 1死2・3塁になったので、スクイズ警戒で内野手が前進する。



 だが、烏丸からすまはバントする気など、さらさらない。彼は奥良おくらのナイスボールを打ちくだく気だ。



 2球目は、烏丸からすまの得意なアウトコースにきた。



(続く)

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