312球目 タッチアップを早くしない

※今回は兵庫連合の宮田みやた洋子ひろこ視点です。



水宮みずみや君、どないしたん?」


「3回までと別人やで」


宅部やかべ君と代わる?」



 浜甲はまこうの選手が水宮みずみや君(私)を心配してくれる。番馬ばんばの指摘が当たって少しドキッとしたけど、笑顔を作って「大丈夫、大丈夫」と答える。



「3点差ぐらい、どうってこたぁない! 僕達で返そう!」



 山科やましなが意気込んで打席に入る。水宮みずみや(私)が1塁ベースコーチなので、足を引っ張るチャンス到来やし。



 カウント2-1から、山科がレフト前へ打つ。シングルヒットの当たりだけど、私はワザと2塁へ回す。



「ゴーゴー!」


「よっしゃあ!」



 気を良くした山科やましなは1塁を蹴って2塁へ走る。レフトの光沢みつさわさんの送球でアウトになっちゃえー。



 ところが、光沢みつさわさんの送球があらぬ方向へ流れていった。山科やましなは悠々セーフ。しまったぁ! 2塁へ回さんかったら……。



 番馬ばんばが力んでファーストゴロ。山科やましなは2塁から3塁へ。



津灯つとう、代わってくれ!」



 私は3塁ベースコーチの津灯つとうに声をかける。



「ええよー」



 津灯つとうのアホめが。これでタッチアップ(※注)を早くさせて、アウトに出来るやし。



 烏丸からすまの打球はセンターフライに。私の思うどおり。



 センターが捕らない内に、3塁ランナーの山科やましなに「ゴー」と指示を出す。山科やましなは目をキラキラしてホームへ走ってくれた。これでアウトだ。



「セーフ!」



 さぁ、タッチアップが早いとアピールしてや、アピール、アピール、あれ? ああ、またやってもうたぁ! サードは私(水宮みずみや)が守っとったんやった。



 水宮みずみやは口笛を吹きながら、グローブで顔をあおいでいる。キャッチャーの瀧口たきぐちなら見てるはず、あー、あのアホ、マウンドに行って糸森としゃべっとる。



 こっちがタッチアップ早いと言うのはおかしいし、完全に裏目に出てもうた……。



(続く)



※注 野手が打球を捕るより先に次の塁へ走ったランナーは、守備側の審判へのアピールでアウトになります。

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