309球目 入れ替わったことが伝えられない

 試合中に、相手チームの選手と心が入れ替わってしまった。浜甲はまこうの皆にこの事実を伝えようとしても、それに関する言葉がのどでつっかえて出てこない。



宮田みやた、いや、水宮みずみや君。残念やけど、俺の超能力は、ふれた人間に対して、特定の事実が発言できなくなる“ドント・スピーク・イット”やし」



 瀧口たきぐちが俺の耳元でささやく。何というピンポイントな超能力だ!



 しかたなく、俺はサードを守る。このおっぱいが揺れる感覚は初めてだ。絶対、打つ時ジャマになりそう。俺のところに打球が飛んできたら、ワザとエラーしてやろう。



 だが、瀧口たきぐちは右打者に対してアウトコース、左打者に対してインコースを攻めて、全く俺の方へ打球を飛ばさせない。



 火星ひぼし東代とうだいがアウトになった後、宅部やかべさんがヒットを打つ。次は真池まいけさんだから、この回は0点かな。



「デッドボール!」



 真池まいけさんの尻にボールが当たった。次の津灯つとうが打てば追加点が入りそう。



 しかし、彼女の打てるゾーンにボールが入らない。ストレートの四球で歩かせやがった。



「4番ピッチャー水宮みずみや君」



 ニセ宮が打席に入った。今すぐ奴とぶつかって、元の体に戻りたい。



 ニセ宮はハエの止まるスロースイングで、糸森いともりのボールに振り遅れる。何て酷いスイングだ。



水宮みずみや君、打ってー!」


「ファイトファイト水宮ぁー!」



 津灯つとう真池まいけさん、応援ありがとう。本物の俺はここにいると、伝えたい!



「ストラックアウト!」


 

 ニセ宮は空振り三振しても、ヘラヘラ顔でベンチに戻っていく。俺の姿で恥ずかしいプレイしやがって、その顔なぐりてぇ……。



(続く)

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