308球目 入れ替わりは頻繁に起こらない

「ストラック、アウト!」



 今日も俺の投球は絶好調だ。これで3個目の奪三振だつさんしんだ。



「9番サード宮田みやた君」



 宮田みやたがバットをかついで、カタツムリのようにノロノロと打席へ入ってきた。



「よろしくねー、水宮みずみや君」



 ゲッ。何か頬を染めて、気色悪い奴だなぁ。早くアウトにしてベンチへ戻ろう。



 打つ雰囲気が全くなかったので、ストレート2球で追い込んだ。3球目もストレートのサインか。OK。



 アウトコースにストレートを投げたら、一塁線にセーフティーバントをしてきた。だが、これは真池まいけさんの守備範囲だ。



 俺は1塁へ走り、真池まいけさんの送球を受け捕る。



「きゃっ!」



 宮田みやたが俺にぶつかってきた。彼女と一緒に倒れてしまう。



水宮みずみや、大丈夫か?」


「ミスター・ミズミヤ!」



 真池まいけさんと東代とうだいが駆け寄ってくる。俺は口を開けて、大丈夫と言いかけたが――。



「平気、平気ぃー」



 俺の声が隣から聞こえる。あれ? まだ俺は何も喋っていないぞ。



宮田みやた、惜しかったな」



 相手チームのキャッチャー・瀧口たきぐちが俺に声をかけてきた。



「えっ? 俺は宮田みやたじゃ、ええ!?」



 自分の声が高くなっている、まるで声変わり前のソプラノのように。



「さぁ、守っていこやし」



 瀧口たきぐちが俺の手を引いて、兵庫連合のベンチへ連れて行く。何で、何で、何で?



「あら、宮田みやたさん。顔に土ついとるわ」



 控えピッチャーの奥良おくらが左の頬を指差す。鏡で顔を確認するか。



「なっ、何ぃー!?」



 ベンチの鏡に映っていたのは、おたふく顔の女性・宮田みやた洋子ひろこだ。じゃあ、浜甲はまこうのベンチにいる“俺”は――?



 浜甲はまこうベンチを見れば、宮田みやたになった俺に気づいた“俺”が微笑んできた。



(続く)

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