307球目 盗塁が成功しない

 兵庫連合のエース糸森いともりはストレートとカーブとフォークを持っているが、どれもこれも三級品だ。三田さんだ青雲館せいうんかん戦は5回4失点、伊丹いたみ三校戦は5回途中7失点、大寺おおでら戦は7回途中4失点と打ち込まれている。



 コントロールも良くない。いきなり宅部やかべさんの肩にボールをぶつけてきた。



「いってー!」



 宅部やかべさんが珍しく叫んで1塁へ向かう。顔をゆがめ、とても痛そうだ。



 真池まいけさんは送りバントの構えをする。糸森いともりはクイックモーションで投げる。



「ストライ!」



 宅部やかべさんが2塁へ走っている。キャッチャーは「何ぃ!?」と叫んで、セカンドへ投げた。先輩の足は速く、スライディングの必要ナシだ。



「セーフ!」


宅部やかべさん、ナイスラン!」



 宅部やかべさんは胸元で小さくガッツポーズしている。相手のスキを突く盗塁はさすがだ。



 真池まいけさんが送りバントを決め、津灯つとうがセンターフライを放ち、あっさり1点先制した。



「ホームラン打つか」



 俺は糸森いともりのボールを思いっきり打つ。だが、力みすぎてサードゴロになってしまった。



「いやーん」



 打球がサードの宮田みやた股下またしたを抜けていった。サードのエラーでセーフになった。ラッキー。



 追加点を狙うため、俺は1-1の平行カウントで走った。



「させるか!」



 俺の足より先に、相手キャッチャーの送球がセカンドのグローブに入った。意外に相手キャッチャーの肩が強かった。



「アウト!」


瀧口たきぐちのアホ―! 何で水宮みずみや君アウトにするんやし!」


「ハァ? 盗塁されそうになったら、殺しにいくのが、キャッチャーのさがやし!」



 俺をアウトに出来たのに、サードとキャッチャーが言い争ってる。今まで変なチームと戦ってきたが、ここも相当変わってるなー。



(続く)

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