300球目 君の名は俺の名じゃない

 大寺おおでらと兵庫連合の試合は、初回に細竹ほそたけのホームランが飛び出した。大寺おおでら花島はなじまのピッチングが冴え、3回まで失点ナシだ。



「9番サード宮田みやたくん」



 兵庫連合スタメン唯一の女子・宮田みやたが打席に立つ。彼女は2試合で6打数ノーヒットだ。



 1-2から打つも、ボテボテのサードゴロだ。彼女は全力疾走しっそうで1塁へ向かう。



「アウト!」


「キャッ!」



 1塁上で、細竹ほそたけ宮田みやたがぶつかった。細竹ほそたけのグローブからボールはこぼれていない。



 細竹ほそたけは彼女の胸の感触に酔い、頬を染める。女子と付き合ったことのない彼にとって、人生最高の瞬間だった。



 彼は胸を張って、守備位置へ戻る。3回裏は自分に打席が回ってくるので、またホームランを打ち、ワザと転んでサードの宮田みやたに抱きつこうかと、よこしまな考えを抱く。



「おい君ぃ! 早くベンチに戻りなさい!」



 塁審るいしんが彼を指差して、語気を荒げて言う。



「えっ? まだツーアウトですよ?」



 細竹ほそたけはしゃべった後、自らの口を押さえた。彼の口から、女性の高い声が出てきたからだ。



「何を寝ぼけたこと言っとるんや。アウトになったんやから、ベンチへ戻りなさい」


「せやせや。早よ帰れやし」



 ファーストの“細竹ほそたけ”が口をとがらせて言う。急に声が高くなり、目の前に自分の姿があり、細竹ほそたけの頭は大パニックを起こす。



「えっ? どういうこっちゃ」



 彼は焦ると男の勲章くんしょうをさわるクセがある。だが、つかもうとしても、股間は平べったくなっていた。逆に胸をさわれば、ふっくらしている。



「もしかして、これって……」



 試合中に、大寺おおでら細竹ほそたけと兵庫連合の宮田みやたの中身が入れ替わってしまったのだ。



(続く)

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