297球目 ブザービートは聞こえない

 才頭さいとうの打球は水宮みずみやのグローブを弾いて、右中間へ転がっていく。水宮みずみやの左手は強烈な打球によって腫れ上がり、あまりの痛さでその場に座りこんでしまう。



 センターの山科やましな颯爽さっそうとボールに追いつく。すでに2人がホームインし、1塁ランナーの毬井まりいが2塁を蹴って、ホームへ向かっている。



山科やましなぁ! バスケの強肩見せろー!!」



 ベンチから鉄家てつげ先生が怒鳴るように叫ぶ。山科やましなは流れ星のウインクをして、バスケのスローイングのフォームで投げだす。



 彼の目には、キャッチャーの東代とうだいがゴールリングに見えた。狙いを定めて、真っすぐ投げた。



 山科やましなの投げたボールは山なりだが、勢いがあった。キャッチャーミットに吸い込まれるように、ボールが入ってくる。毬井まりいの足より先に。



「アウト! ゲームセット!」



 山科やましなの強肩によって、浜甲はまこう学園は摩耶まや高校を5-4で下した。



※※※



 試合終了のあいさつで、尺村しゃくむらが謝りにきた。



「ごめんねー。私の眼で君を呪っちゃってー」



 彼女が頭を下げれば、TV画面の井戸から出てきた幽霊のように見える。赤い目より怖いよ。



「右肩が4回、9回に痛くなったのは、そういうことだったのか。でも、番馬ばんばさんや宅部やかべさんを呪うのは、やり過ぎだよ」


「へっ? 私が呪ったのは、水宮みずみや君だけポポポポポポ」


「ウソだぁ。でも、宅部やかべさんが見たのは長い髪の長身の女で……」



 急に左肩を誰かの手が乗る。俺はヒィと叫んで後ろを見れば、何てことない、烏丸からすまさんだ。



「呪いをかけられるんは、他にもいるっちゅうことカー」


「マジですか……。罰が当たればいいのに」



 俺がそう言って前を向けば、尺村しゃくむらの前髪が、平安美女の後ろ髪みたいに長く伸びていた。もう妖怪だよ、あんた。



 何はともあれ、4回戦も勝てた。ついにベスト16だ。決勝まで1試合ごとに抽選だから、どこと当たるかわからない。



 まぁ、相手が良徳りょうとくだろうが、ポートタウンだろうが、負ける気はしない。



浜甲000 000 311……5

摩耶000 200 002……4



(続く)

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