295球目 あと1人で終われない

 尺村しゃくむらのツーベースヒットの後、菊田きくた置堀おきぼりが立て続けに凡退した。相変わらず摩耶まやの応援団の声が死んでるので、あと1人コールが球場全体を包み込むように聞こえる。



「6番サード木更城きさらぎ君」



 木更城きさらぎはバットを短く持ち、確実に当ててくる巧打者こうだしゃだ。パワーがないため、取塚とりつか夕川ゆうかわ)さんの球威なら内野ゴロだろう。



 おっ、予想どおりのファーストゴロ。真池まいけさんがボールをつかんで、カバーに入った取塚とりつかさんへトス。



「あれっ? 何で?」



 何と、真池まいけさんのグローブのあみにボールが挟まっていた。真池まいけさんが悪態をつきながらボールを外せた時には、木更城きさらぎは1塁ベースを踏んでいた。



「7番古栗こくり君に替わりまして、毬井まりい君」



 西洋人形のような白肌と長い金髪が特徴的な毬井まりいが、バッターボックスに入った。彼女は摩耶まや一の俊足だ。内外野前進で守る。



 打球はサードへのゴロ。千井田ちいださんが捕って、いや、捕れてない!



 連続エラーで、とうとう満塁になってしまった。東代とうだいがマスクを外して立ち上がり、声を張り上げる。



「あとワンナウト、ワンナウト!」



 まだ3点差だから、落ち着いて守れよ、みんな。そう思う俺の足は、小刻みに震えている。



(続く)

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