294球目 神スイングが目視できない

 9回裏も投げたかったが、大事を取ってマウンドを降りた。右肩に違和感あるから、しゃあないか。



 先頭打者は尺村しゃくむら。こいつさえ抑えれば、もう勝利確実だ。



 ショートの津灯つとうが、東代とうだいのサインを外野陣に教えてくれる。初球はインコースのストレートか。長身の尺村しゃくむらが打ちにくいコースだ。



 取塚とりつかさんはテンポ良く投げ、2球連続ストレートで、あっという間に0-2に追い込んだ。尺村しゃくむらは微動だにしない。このまま終わってくれ、頼む。



 3球目は外の超スローカーブ。これで空振ってくれたら、外野の出番ナシだ。



 ストレートと変わらぬフォームで、取塚とりつかさんは投げた。超スローカーブはキレ過ぎて、ボールゾーンに入った。尺村しゃくむらのバットのヘッドがぐらついたように見えた。判定はボール。



 4球目はインハイのストレート。遅い球の後は、速い球が効果バツグンだ、いけ、取塚とりつかさん!



 その時、尺村しゃくむらのバットが動いた。目にも止まらぬバットスイングが、ボールをとらえた。打球は、俺と山科やましなさんの間を戦闘機の速さで飛んでいった。



「はっ? えっ?」



 女子とは思えぬパワフル打球を目の当たりにして、俺は金縛かなしばりにあったごとく固まってしまう。



 山科やましなさんがボールを拾ってくれたが、尺村しゃくむらは甲高く笑いながら2塁に到達した。



 まだ試合は終わりそうにない。



(続く)

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