292球目 IQは裏切らない

 打撃好調な浜甲打線の中で、東代とうだいだけがヒットを打っていなかった。彼は相手のデータに基づく配球の組み立てに必死で、バッティングにまで意識が回らなかったのだ。



 しかし、今日に関しては水宮みずみやが名投手のピッチングをするため、あまり頭を使っていない。



 2死3塁。ヒットを打てば勝ち越せる。相手ピッチャーのストレートとスライダーは、ピッチャー太郎02で見慣れたボールだ。東代とうだいには打てる確信があった。



猫屋敷ねこやしき君、頑張ってぇ!」



 頭に包帯を巻いた尺村しゃくむら猫屋敷ねこやしきに声援を送る。猫屋敷ねこやしきは深くうなずき、セット・ポジションにつく。彼は一呼吸置いてから投げ始める。



「ボール」



 初球は外のボール球だ。東代とうだいは「ワーオ」と小声を上げる。



 彼は尻を左右に振って、とても興奮している。今まで色んな物を発明したり、研究したりしていたが、どんな難題でも“正答”を出してきた。



 しかし、野球は、“正答ヒット”が出せるとは限らない。多くは“誤答凡打”である。“誤答凡打”が“正答エラー”になって生きることもある。無限の答えを秘めている。



 2球目は低く外れてボール。



 絶対にストライクを入れたい3球目。東代とうだいは高めに甘いボールが来ると読んだ。



 猫屋敷ねこやしきがニャアと叫びながら投げる。ボールは高く浮いた。東代とうだいは迷わず振りぬく。



 打球はピッチャーの頭を越えて、センターの前に落ちた。



「フェア!」



 東代とうだいのバットは、最適な“正答ヒット”を導いた。



(続く)

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