288球目 人の魂に質量があるかもしれない

 小さい頃の尺村しゃくむら八美はちみは、色んな人からさけられていた。



 彼女にちょっかいをかけた男子が骨折したり、悪口を吐いた女子がインフルエンザにかかったりと、不幸なことが立て続けに起こった。そのため、誰も彼女に近寄らないようになったのだ。



 不憫ふびんに思った担任の先生は、彼女を大門寺だいもんじに紹介した。大門だいもん寺は烏丸からすま天飛てんとの父が住職をしている。



 応接間で、尺村は頭を下げたまま、ずっと正座をしている。戸が開くと、カラスの口ばしがついた坊主頭の少年が、ニヤニヤしながら入ってくる。



「おっ、お客様カー。今日はどんなご用で?」


「ちっ、近寄らないで」


「んー? んー?」



 尺村しゃくむらの声が小さすぎたので、烏丸からすま少年は彼女の周りをうろうろする。彼女の顔をのぞきこもうと、顔をグイと近づける。



「近寄らないでと言ってるでしょ!」



 彼女が赤い瞳を大きくして怒鳴れば、烏丸からすま少年の体が吹っ飛ばされた。彼の頭は障子を突き破り、廊下にはみ出した。



「何やっとんのや、お前?」



 廊下を歩いていた烏丸からすま父と障子から出た息子の目が合う。



「ハハハ。めっちゃ強い女の子来たでー」



 烏丸からすま父はタメ息をついて、応接間に入った。烏丸からすま少年は頭を抜いて、隅っこの方で静かに見守る。



「ごめんなさい、ごめんなさい。私は生きていたらいけないんです」



 尺村しゃくむらは長机に何度もおでこをぶつけて謝り続ける。



「ふーむ。どうやら、君の瞳は、無意識のうちに気に入らない相手を呪ってしまうらしい」


「そうなんですか。じゃあ、この目をつぶします!」



 彼女が鉛筆を出して、左目を差そうとしたので、烏丸が彼女の腕をわしづかみして止めた。



「はっ、離して下さい!」


「バカなことするんやない! 力をコントロールすれば、君の力は大いに役立つんや!」



 烏丸からすま少年は、父と彼女のやり取りを熱心に見ていた。父の真剣な表情と仕草に、彼は憧れを抱く。



 その後、1か月かけて、尺村しゃくむらは定期的に他者の魂を吸って、また元に戻すことで、呪いの瞳を制御できるようになった。ただ、その赤い瞳は人々を怖がらせるかもしれないので、前髪で隠すようになった。



 こうして、魂吸たますいの尺村しゃくむら八美はちみが誕生したのだ。



(続く)

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